團伊玖磨/合唱組曲「筑後川」
團伊玖磨と言えば、オペラ「夕鶴」をはじめ、交響曲、管弦楽など幅広いジャンルの日本のクラシック音楽の作曲家ですが、映画音楽、童謡、数多くの合唱曲なども書いています。
なかでも代表的な合唱曲と言えば混声合唱曲「岬の墓」、混声合唱組曲「筑後川」、混声合唱組曲「海上の道」でしょうか・・・合唱曲は九州を題材にした、いわゆる「九州作品」が非常に多く、「北九州」「筑紫賛歌」「大阿蘇」「玄海」「筑後風土記」「長崎街道」「伊万里」「ながさき」と言った作品があります。
これらの曲の中では、今回紹介する「筑後川」が最も有名で、演奏会でも多く取り上げられています。合唱経験者なら知らない人はいないでしょう。私も歌った経験があります。
「筑後川」は、アマチュア合唱団の「久留米音協合唱団」の5周年の記念委嘱作品として作曲された曲です。作詞は医師である丸山豊氏、1968年に作曲家自身の指揮/久留米音協合唱団で、「筑後川」発表会として初演されています。(この時はピアノ伴奏版です)
一般的には合唱団の定期演奏会などではピアノ伴奏版で演奏されるのが多いのですが、オーケストラ伴奏版、吹奏楽伴奏版があります。(吹奏楽版は聴いたことがありません)
曲は第1楽章「みなかみ」、第2楽章「ダムにて」、第3楽章「銀の魚」、第4楽章「川の祭」、第5楽章「河口」の5曲からなっていますが、合唱の楽譜は実際には第1楽章はト長調、第2楽章は変ホ長調と言うように調号はあるのですが、何故か全曲とも全て無調で調号を使わず、臨時記号で書かれています。そのため合唱パートの譜読みが面倒と言うか、はじめは戸惑います。
第1楽章「みなかみ」では、5/4拍子のフーガ的な短い無伴奏の合唱からはじまり、川の静かな「せせらぎ」を思わせるようなメロディーから、3拍子に変わり躍動感のある堂々とした曲となります。
第2楽章「ダムにて」では、2拍子/4の軽快なメロディーからはじまります。流れがダムでせき止められますが、再び大自然の中に大きな流れを作り出す歓喜の合唱となります。
第3楽章「銀の魚」は、冒頭の9小節は無伴奏の合唱で癒しの語り・・・曲は4/4拍子ではじまり、2拍子、3拍子、2拍子、4拍子とリズムが頻繁に変わる曲ですが、味わい深い曲です。
第4楽章「川の祭り」は、4拍子/4で、一転してエネルギッシュな狂乱に近い力強い曲になります。オーケストラ伴奏版では太鼓が躍動的に活躍します。合唱も歯切れがよく、祭りの気分がもりあがります。
第5楽章「河口」は、5拍子/4で、川の沿岸での暮らし、風景が歌われ、やがて流れは有明海の河口に向かっていく様子が、壮大に、そして大きなドラマを予感させながら悠久の流れを歌いあげ、感動的な終曲となります。
さて、この曲の音源ですが私の手許には、LP1枚、CD3枚、計4種類のライブラリーがあります。
本間四郎氏指揮による、久留米音協合唱団の演奏は、私にとって全国合唱コンクールで何回も聴いたことがある、思い出多い合唱団です。
このCDの魅力はライブ録音の「筑後川」の名演をはじめ、これまた合唱曲では有名な佐藤眞作曲のカンタータ「土の歌」のオーケストラ伴奏版が全曲収められているのが魅力。この曲は良く中学校の卒業式や校内合唱コンクールなどで良く歌われる「大地賛頌」が終曲の超有名曲です。このCDではプロ合唱団の東京混声合唱団で、すばらしい演奏を聴くことが出来ます。その他、合唱の作曲家として有名な木下牧子作曲の、混声合唱とオーケストラのための「鷗」、武満徹作曲の[混声合唱のための「うた」より]がカップリングされているのもうれしいですね。
合唱ファンとしては、ベートーヴェンなどの交響曲などを聴くのもいいですが・・・・たまには日本人作曲家の合唱曲にも耳を傾けて欲しいものです。
■私のお薦めの邦人作曲家の合唱曲は特集記事
として、こちらに投稿記事があります。
ぜひ、見てください・・・・・
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■團伊玖磨作曲の交響曲全6曲の投稿はこちら
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合唱組曲「筑後川」 作詞:丸山豊
1 みなかみ
いまうまれたばかりの川
山の光は
小鳥のうぶ毛の匂。
若草と若葉のかさなりは
天へつづくみどりの階段。
阿蘇外輪の春。
溶岩の寝床で
いま生れたばかりの川
すがすがしい裸の愛が
頬をあからめて歌いだす。
素足でげんきよく走りだす。
さあ遠い旅行がはじまる。
けものの白い骨を
狩人の墓を洗い
森のくらさをおそれずに
滝の高さをおそれずに
さあ未知のくにぐにへの旅行がはじまる。
2 ダムにて
いそいそと瀬を走り
青葉をくぐり若葉をくぐり
もだえてみぎに左にうねり
愛の水かさがふくらんだところで
非情のダムにせきとめられる。
川よ
愛の川よ
もっと深さをもつように。
もっと重さをもつように。
もっと冷静であるように。
<男性>
不屈の決意をした青年です
いのちがけで愛するために。
見よ!水面に映したくれないの雲。
<女性>
あなたを信じます。
あなたの愛を
ごらん!魚たちの鰓呼吸のおだやかさ。
川は
大きな川は
かがやく活路をさがしだす。
自然に育てられた愛が
筑後平野の
百万の生活のなかへ
歓喜の声をあげて走ってゆく。
3 銀の魚
しずかにしずかに
楠の木かげを漕ぎだした
川の男の
たくましい胸板
あたらしい棹を入れる
川の女の
清らかなうなじ。
朝の川面に
投網がふくらむ。
さざなみが湧く。
さざなみがひろがる。
深い川の深い心を
いきのよい魚をとらえるのだ。
朝日にはねよ銀の魚
4 川の祭
祭よ 川を呼びおこせ
とっぷり暮れた大きな川へ
太鼓をたたけ。
太鼓をたたけ。
一千匹の河童よさわげ。
どどん どどん
どどん どどん
祭よ
川を呼びおこせ
一万匹の河童よさわげ。
十万匹の河童よさわげ。
どどん どどん
どどん どどん
祭よ
愛を呼びおこせ。
はげしい愛を呼びおこし
花火をあげよ。
花火をあげよ。
一万匹の河童をてらせ。
ぱぱん ぱぱん
ぱぱん ぱぱん
祭よ
愛を呼びおこせ。
十万匹の河童をてらせ。
百万匹の河童をてらせ。
ぱぱん ぱぱん
ぱぱん ぱぱん
5(終章) 河 口
フィナーレ
終曲を
こんなにはっきり予想して
川は大きくなる
終曲を華やかにかざりながら
川は大きくなる。
水底のかわいい魚たち
岸辺のおどけた虫たち
中州のかれんな小鳥たち
さようならさようなら
川は歌うさようなら
紅の櫨の葉
楠の木陰
白い工場の群よ
さようならさようなら
川はうたうさようなら
筑後平野の百万の生活の幸を
祈りながら川は下る
有明の海へ
筑後川筑後川 その終曲あゝ
では、今日は、このへんで・・・・HIROちゃんでした。![]()
